ようこの日記

名古屋の開業税理士です。モットーは「明るく、楽しく、まじめに」です。

読書日和〜お金とジェンダーと

電子書籍で三分の一くらい読んで、オーディブルに切り替えて読了した本。

川上未映子「黄色い家」

職業柄、読み始めてすぐに金銭トラブルの予感が頭をかすめ、登場人物全員に「あの〜確定申告はしていますか?」と聞きたくなってきた。

そして、主人公の元女子高生はついに特殊詐欺の出し子のリーダー格と成り果てるのである。

 

元女子高生は身分証を持たぬゆえに銀行口座の開設を諦め、自宅でファミレスのバイト代やスナックの売上金、出し子で得た金を保管。

バイト代は母親の彼氏に盗まれ、スナックの売上金の結構な分は母親に無心されて渡してしまい、特殊詐欺で得た金は仲間割れで金の切れ目が縁の切れ目になる始末。

 

登場人物全員が金銭感覚が壊れており、自分の金と他人の金の区別がついていない。

そういう風になった背景も丹念に描かれているが(だから長い)、親ガチャだったり知能が足りなかったり、同情を誘う部分も多い。

 

しかし世の中、難しい環境に育ちながらも堅実な金銭感覚を持つ人も少なくない。

亡き親の知人で兄弟が多すぎて中卒で社会に出た人がいるが、真面目に定年まで勤め上げてギャンブルもせず地道に生きている。

私自身も幼少期から経済的に苦しい環境で育ったが、税理士となり人様の帳簿付けやら税金の計算をせっせとしている。

 

この仕事をしていて思うのは、経済観念というのは一体どうやって形成されるのだろうということだ。

遺伝的要素、親のしつけ(反面教師のケースも)、20代の頃の就業経験に左右されるのではと今のところ仮説を立てている。

 

私はお金は地道に泥くさくコツコツと働いて得るものと思っているし、派手な生活を送るよりも信頼のおけるお客様はじめ周りの方々に囲まれていることを幸せと思うタイプである。

 

窃盗だの特殊詐欺だのをして大金を得たところで悪銭身につかずだろうし、金が人の心を狂わせることにむなしさしか感じない。所詮あの世へは六文銭しか持って行けないのだから。

 

しばらく前にプライベートでたまたま聞いた投資詐欺の話は、将来不安につけこんで〜というものらしく、もちろん騙した方が悪い。ただ、騙される方も、以前からどこかに楽して金が増える方法があって誰かが教えてくれるに違いないと期待する甘さがあり、そこを利用されて被害に遭ったのだろうなと私は見ている。消費者センターに電話するようにあれだけ言っても「通話料がもったいない」「投資を勧めてくれた人から信じてほしいとメールが来た」とばかり言い、その後どうなったか知らない。

 

目の前に突如現れた魅力的な選択肢。決断力は大事だ。早い者勝ち。

しかし世の中は世知辛いもの。その話を持ってきた人がどんな背景の人でどういう意図があるかにも留意する必要がある。「鬼滅の刃」の鬼殺隊や柱のような性善説で生きる人間もいれば鬼もいる。鬼の描いた絵の中に組み込まれるのは最悪である。ましてや「お前も鬼にならないか?」と誘われるのはまっぴらごめんだ。(断る!)

 

この本の主要な登場人物はほとんどが女性だ。女性が自分よりも社会経験が浅く困っている女性を利用する構造だ。女性で群れていれば安心とは限らないのだ。自分の頭で考えて、安易に流されないこと。もし足を引っ張られたらエレガントに蹴って差し上げてもバチはあたらなくてよ。